インスタレーション、映像、パフォーマンスなど多様な形態を横断する作品制作とともに、昨年からは「art for all」や「表現の現場調査団」といった社会へ向けた発信と改善へ向けて動かれています。ACCフェローシップでは、コロナ禍になる直前まで、米国に6ヵ月間滞在なさっていました。米国でのお話、制作への思い、社会活動についてお聞きしました。
 


 

美術とパフォーミング・アーツの間で

ACCへ応募する数年前からですが、日本の現代美術におけるアートシーンは、ダンスや舞台芸術におけるシーンとは少し離れていて、そのちょうど中間あたりにまさに自分がやりたいことができるメディアがあると感じていたのですが、そうした状況が日本には少ない……と感じていました。

2016年に神村恵さん(ダンサー・振付家)とパフォーマンス・ユニット「乳歯」を始め、翌年3月、恵比寿映像祭で、ダンサー兼振付家・映像作家であるイヴォンヌ・レイナーの作品を観たときに衝撃を受けました。この作品とレイナーについて理解を深めていくことが私には必要と感じました。

私が観たレイナーの作品は、ドキュメンタリー風で、実験的でありながら、映画としてきちんと作品になっていて、女性の更年期を扱っていました。「老いること」「ジェンダー」に触れられており、ダンス作品と映画の境界をまたぐレイナーの活動をよく知るために、拠点のひとつであるニューヨークに行ってみたいとリアルに感じるようになりました。これがACCへ応募するきっかけといえます。

 

ACC助成で渡米

2019年6月から11月にかけて米国に滞在し、おもにNYでレイナーやローカルなパフォーミング・アーツのリサーチをしました。リンカーンセンターやNYパブリックライブラリーでパフォーミング・アーツの資料を見たり、関係者の方々にお話を聞きに行ったり、LAのGetty Institute内のレイナー・アーカイヴで調査もしました。リサーチを重ね、レイナーの公演や幸運にもリハーサルを実際に鑑賞することも出来ました。実感とともに全容を掴みつつ、自分の探求意義を捉えようというところで滞在が終わってしまいました。再渡米も視野に、今はまたそこから考えたい思いがあります。

滞在中ACCからは「ここでしか得られない体感を大切にしてほしい」と言われました。つまり、成果だけを追い求めるのではなく、「ここで生活するだけで、体得できることを大事に」とのことでした。これはとてもACCならではと思っています。

なのでリサーチでダンス・ワークショップを受けたり、ヨガをしたり、道行く様々な人と気さくに話をしたり……自分のリズムでやっていきました。オープンな気持ちでいると、色んなことに出会え、何でもつながってくる感覚がありました。「こうじゃなきゃいけない」といった考え方もなくなり、いいかどうかは別として、なにかのネジがとれた気がします(笑)。得難い経験でした。

 

NYで小津安二郎の映画を観る

Film Forum という映画館で、東京の下町にまつわる上映プログラムがあり、小津の「東京物語」が好きで何度か観ましたが、映画は観る環境で見えてくるものが変わると思いました。東京の映画を米国人に囲まれながら観るということは稀有な経験になりました。

帰国後、そこでの感触を活かし、ユニットを組む神村さんとレクチャー・パフォーマンスの公演をしました。小津映画に出てくる“女性”の立ち居振る舞いや仕草を「振付」として捉えました。

たとえば歩き方ひとつでも、劇中、笠(りゅう)智(ち)衆(しゅう)さんといった男性は真っ直ぐ歩くことが多く、杉村春子さんや三宅邦子さんら女性の俳優はわりと蛇行するんです。女性が色んな家事やサポートをする役割であるとともに、かばんを持つ、座布団を持つ、お茶を運ぶといった動作が、画面の豊かな動きを作っているのでは、たぶん動きとしても役割としても映画自体を動かしているのは女性なんじゃないか、と検証していきました。

 

生活をつくることが、制作に

今年七月からの展覧会「Back TOKYO Forth」(お台場・東京国際クルーズターミナル於)では「東京仕草」というインスタレーションを出品しています。こちらも小津の「東京物語」に出てくる女性の仕草に着目した作品です。

かつてお台場にはペリーが来航し、ちょうどその100年後の1953年に「東京物語」は発表されています。この100年は、東京が江戸から昭和の高度経済成長へと向かう怒涛の時代で、女性の家事が一番大変な時期だったこともわかっています。女性の仕草に注目することで、過去から未来へ向かう文脈と想像への作用に繋がれば幸いです。

以前は、作品をつくることと、生活をつくることをきっちり切り替えていましたが、今はその距離を縮めようとしています。金沢の今の住まいも、築100年ほどの日本家屋ですが、生活をつくること自体が制作につながっていると考えてます。身体を作ることや、生活する場所、建物など、その歴史や時間と、作品で実現する時空間の関係を意識しています。複数の時間が重なる経験を作りたいと思っています。

『東京仕草』展示風景
東京国際クルーズターミナル「Back TOKYO Forth」展(2021年)より
Photo by : Akira Arai(Nacása & Partners Inc.)

 

米国で出会った支援者の皆様

NY滞在中、200名を越えるACCのガラ・パーティーが開かれ、私も参加いたしました。米国では個々人で寄付なさる民間の方が数多くいらっしゃり、そうした方々と直接お話しできたことは印象深かったです。「何がしてほしい?」と尋ねられ、「え? すでにだいぶ助かってますけど」と、申し訳ないような思いがあったのですが、ここで気づきを得ました。

私はこれまで、世の中の要求に応えるのではなく、「世の中に疑問や要求を投げかける」ものとして芸術に関わってきたと思っています。渡航には支援して頂きましたが、資金を出してもらっているから従うのではなく、お互いに作用し合う関係性の中で「芸術が存在する世の中」を米国で実感できた気がします。支援なさる方にとっては、アーティストと話をし、具体的に何に資金提供しているかわかることがモチベーションや意義につながると聞いています。リクエストや提案をしっかりすることで、遠いと思っていたことへもっとつながっていきたい、と思わされました。

2019年11月に開催されたACCのガラ・パーティーにて、ACCのグランティと。

 

「art for all」「表現の現場調査団」について

そうしたこともあって、作品制作とは別ですが、コロナ禍に始まった「art for all」というネットワークのような活動に関わるようになりました。昨年5―6月ごろからです。

美術に携わる私たちがつながろうとせず、働きかけてこなかったため、あまり支援の対象になっていない状況がありました。私たちも複雑な世の中の一部分であって、ちょっとした気づきを伝えていく大切さがあるのでは、と動いています。

「表現の現場調査団」という活動も昨年11月に発足され、私も今年1月から携わっています。5年限定のプロジェクトで、毎年対象を変えて調査をします。1年目はハラスメントで、2年目はジェンダーバランスについてです。

調査団メンバーには、ACCのグランティも何人かいますが、このことは結果的にと思います。海外での経験を経て日本を客観的に捉え、改善したい状況が見えるのかもしれないですし、作家活動を超えて多角的に活躍している方々ともいえます。

分断の世の中と言われる中で、小さな気づきを大事にし、身の回りからちょっとしたアクションを起こすことは、遠いところへとつながって、近づいていけるような感覚があります。直接的にも間接的にも、です。作品制作はもちろん、より広い視野でやっていきたい思いです。機会をくださったACCに感謝しております。

(取材・構成 松平節)


 

津田道子(つだ みちこ)
神奈川生まれ。金沢美術工芸大学准教授。東京藝術大学大学院映像研究科博士号取得。2016年より神村恵とのパフォーマンス・ユニット「乳歯」を展開。
主な展覧会に、2020年「Arts Towada十周年記念 インター+プレイ展 第1期」(十和田市現代美術館)、2019年「あいちトリエンナーレ2019: 情の時代(Taming Y/Our Passion)」(四間道会場 伊藤家住宅)、「六本木クロッシング2019展:つないでみる」(森美術館)など。主な個展に、2020年「Trilogue」(TARO NASU、東京)、2017年「Observing Forest」(Zarya現代美術センター、ウラジオストク)ほか。
作家ホームページ: http://2da.jp/

 


会報誌「ACC Japan通信 2021年9月号」からの転載記事
P2〜3. グランティ・インタビュー
「ACC Japan通信 2021年9月号」PDFはこちらから。

カバー写真:津田道子 近影
Photo by IIKAWA Takehiro