"Rewind / Fast-Forward / Press Play - 巻き戻し/早送り/再生- "

2019年2月10〜11日、TPAM−国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2019にて、ホセ・マセダ作曲作品「カセット100」と「5台のピアノのための音楽/2台のピアノと4本の管楽器」のパフォーマンスが開催されました。このイベントは、TPAMディレクションのディレクターで、ニューヨーク在住の作曲家/キュレーターの恩田晃氏の進行中のプロジェクトに基づいています。さて、その模様を巻き戻しで振り返ってみましょう。


ホセ・マセダ (写真:フィリピン大学民族音楽学センター)

2017年は、作曲家/民族音楽学者であるホセ・M・マセダ博士の生誕100周年を祝う年でした。同年、恩田晃氏はACCグラントにより、マセダ氏(ACC及びジョンD. ロックフェラー三世基金グランティ 1974-2000)がフィリピンと日本における、現代の実験音楽、実験的パフォーマンスに与えた影響の足跡の調査を開始しました。 1997年に「ナショナルアーティスト」(フィリピン国において芸術界に際立った貢献をしたアーティスト)の称号を与えられたマセダ氏に関するこのタイムリーな研究は、マセダ氏のアーカイブ資料と共にとマセダ氏個人の物語の双方を浮かび上がらせるものとなりました。まず、恩田氏はフィリピン大学民族音楽学センターにある膨大なマセダ氏の楽譜やメモ、フィールドレコーディング資料のコレクションを選り分ける作業から調査を開始しました。


フィリピン大学民族音楽学センターでの調査(写真:恩田晃)

その後、マセダ氏と共に学び制作した作曲家たちや、実験音楽やサウンドアートの領域の若い作曲家にもインタビューを実施。恩田氏によると、マセダ氏は「フィリピンの土着の音楽性に関するフィールドワークとともに、前衛音楽の演奏のパイオニアとして母国で高く評価されている」とのことですが、同時にマセダ氏の貢献は「あまり認識されておらず、フィリピン国外ではほとんど演奏の機会がない」そうです。


「5台のピアノのための音楽」(写真:前澤秀登)

さてここで、TPAM 2019に早送りしましょう。恩田晃氏は、神奈川芸術劇場(KAAT)において、ホセ・マセダの作品「カセット100」「5台のピアノのための音楽」「2台のピアノと4本の管楽器」をこの国際舞台で発表しました。これらのパフォーマンスは、恩田氏のコメントにもあるように、マセダ氏の同僚世代のアーティストだけでなく若いパフォーマーや作曲家も巻き込んだ多世代の公演となりました。「5台のピアノのための音楽」(1993)では、ACCのグランティであり、またマセダ氏のコラボレーターでもあったピアニストの高橋アキ(ACC 1989、2000)と高橋悠治(ACC 1967)、指揮者のジョセフィーノ・チノ・トレード(ACC 1985-1998)が参加しました。


「カセット100」(写真:Yoshihiro Arai)

「カセット100」は、パフォーマンスアートの社会文化的意義を探求することを使命とするアーティストと専門家によって組織されたANTIBODIES Collectiveの東野祥子とカジワラトシオによって、演出、振付されました。この大規模なマルチメディア作品は、フィリピン土着の楽器や人々の声が録音されたカセットを100人の参加者が再生するというもので、1971年にフィリピン文化センターで初演されました。恩田氏自身も作曲家として、1988年からフィールドレコーディングによるサウンド・ダイアリー(音声で記録する日記)「カセット・メモリーズ」作品で知られており、そこから作曲、パフォーマンス、ビジュアルアート作品を制作しています。作曲とキュレーションの仕事により、彼は私たち現在における、過去の継続的な影響を明らかにしているのです。

写真下:恩田晃、高橋アキ、高橋悠治、ジョセフィーノ・チノ・トレード