*当結果発表は、2022年2月3日を締切日とした募集に関するお知らせです。3月31日を締切とした募集に関する結果発表は、2022年晩夏頃に予定しています。



 


>> PDFダウンロード「2022年度ACC日本グラントプログラム フェローシップ・グラント 決定」


アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)は、1963年の設立以来、アジア諸国と米国における文化交流活動を通じた国際対話や理解、尊敬を深め、より調和のとれた平和な社会の創造に寄与しています。この使命の達成のため、アーティストや研究者、アートの専門家といった個人を対象とするフェローシップやその他の支援プログラムを行っております。

このたび2022年度ACC日本グラントプログラムのフェローシップ・グラントが決定いたしましたことをご報告いたします。
今年度より審査員の方々のお名前とともに、分野ごとの代表による総評を掲載いたします。
 





2022年度ACC日本グラントプログラム 審査員(敬称略)

ビジュアルアート部門
*木村絵理子(横浜美術館 主任学芸員)
崔敬華(東京都現代美術館 学芸員) 
小沢 剛(美術家 1996年ACCグランティ)

パフォーミングアーツ部門
*高橋宏幸(演劇批評家 2012年ACCグランティ)
小野晋司(横浜赤レンガ倉庫1号館 館長)

*分野別審査員代表


上記審査員の他、2022年度の選考に際しては、下記の方々に有益なご示唆を頂戴しました。

藤枝 守(作曲家 1984年ACCグランティ)
四方田犬彦(映画誌・比較文学研究家・エッセイスト・詩人 1986年ACCグランティ)
 





2022年度ACC日本グラントプログラム
フェローシップ&グラント


◆ ニューヨーク・フェローシップ – New York Fellowship  (米国・ニューヨーク 6ヶ月) ◆

萩原雄太 Yuta Hagiwara
パフォーミングアーツ部門(演劇)

ニューヨークにおける第二次大戦後の「オルタナティブシアター」の潮流を支えた「Democracy’s Body」についての調査。
ACC Saison Foundation Fellow *
Photo: Rakutaro Ogiwara

大崎晴地 Haruchi Osaki
ビジュアルアート部門

障害と文化の歴史的背景及び現代のインクルーシブな文化形態に関する学際的な調査、また、コロナ以降の身体表現や体験型・参加型における新しいコミュニケーションモデル及び環境についての調査。



鈴木英倫子(すずえり) Elico Suzuki (suzueri) 
ビジュアルアート部門

主にソニック・アーツ・ユニオンの作品を中心とした、米国におけるメディア/サウンドアートにおける自作、改造、ハッキング楽器の歴史や、メイカームーブメントへの影響についての実態調査。
Photo: Benedict Phillips

 

◆ 個人フェローシップ – Individual Fellowship ◆

秋田 祥 Sho Akita
ビジュアルアート部門(キュレーション)

米国NYにて2ヶ月間の個人フェローシップ。ACCグランティであるアーティストの故 古橋悌二が過ごしたニューヨークでの時間についての現地調査。



岩根 愛 Ai Iwane
ビジュアルアート部門(映画/ビデオ/写真)

米国西海岸にて2ヶ月間の個人フェローシップ。環太平洋における鮭とコミュニティの文化についての現地調査と、エコロジカルな芸術実践の視察。
Photo: Shinya Ito


森あらた Arata Mori
ビジュアルアート部門(映画/ビデオ/写真)

タイにて2ヶ月間の個人フェローシップ。現代のタイにおいて急増していると言われる LGBT霊媒師との交流や彼らから霊媒術の研修を受けることを目的としている。
Photo: Julien Cott


渡辺真帆  Maho Watanabe
パフォーミングアーツ部門(演劇)

ベトナム及びインドネシアにて2ヶ月間の個人フェローシップ。アジア各地の信仰・死生観を探求する長期プロジェクト「テラジア|隔離の時代を旅をする演劇」のコラボレーター達との共同調査。
ACC Saison Foundation Fellow *
Photo: Toshiki Yamahata


◆ 団体助成 – Grants to Institutions ◆

国際舞台芸術交流センター 
Japan Center, Pacific Basin Arts Communication (PARC)

パフォーミングアーツ部門(ダンス、演劇)

北京拠点の振付家ヤン・ジェンが、世界各地の中華街に住む様々な来歴の家族とのコラボレーションを通して、中華アイデンティティとローカルアイデンティティの現代的あり方を探るプロジェクトに対する支援。ACC Saison Foundation Fellow *


*「ACC Saison Foundation Fellow」は、公益財団法人セゾン文化財団による助成金が充当される活動に授与しています。





審査員代表より選考に関して

ビジュアルアート 総評

 ビジュアルアート(美術)分野におけるACCのグラントは、これまで着実に、そのアーティストのキャリアにおいて重要な、ステップアップの機会を提供してきました。多くの場合、日本で一定の評価や注目を集めるスタートアップの時期を経て、次の展開を模索するアーティストたちや、国際的視野で活動領域を拡張しようするアーティストが対象になってきたプログラムだと認識しています。

 現在の世界は、過去2年以上に渡って新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした極めて特殊な状況下にあり、美術の世界でも、遠方からのアーティストの招聘や展覧会の機会が大きく減少するなど、新しい人や場所との出会いや、多様な経験を積んでいくことが重要な表現者たちにとって困難な時期が続いています。こうした状況を踏まえたごく自然な反応として、筆者を含む日本側の審査員の間では、申請者がなぜ今、ニューヨークや米国、あるいはアジア諸地域でのリサーチや滞在の機会を求めているのか、それぞれの切実さを申請書から読み取ることが、かつてないほどに重視された選考だったように感じます。

 結果として選ばれた5名は、過去数年に比して、比較的キャリアを積んだアーティストたちになりました。精神病理学や障害と芸術の関係を、自身の活動の中で実践してきた大崎晴地氏、実験音楽のジャンルで豊富な実績を持つサウンド・アーティストのすずえり氏、写真家として土地に深く関わるフィールドワークを行ってきた岩根愛氏は、それぞれの実績と経験に裏付けられた自信を持って、ニューヨークや西海岸での活動を進めることができるものと確信しています。また、キュレーターの秋田祥氏は、古橋悌二という1990年代の日本発のコスモポリタンな表現者を起点に、日米におけるクイア文化の交流をリサーチしようとしています。秋田氏のリサーチには、ACCのネットワークが活かされることは間違いないことでしょう。今年のビジュアルアート分野のグランティの中で、唯一米国以外の国であるタイでの活動を選択した映像作家の森あらた氏は、審査の過程でも議論になりました。タイへの入国と滞在や、現地での取材が円滑に行えるのかどうかという実現性の課題や、LGBTの霊媒師という特殊な取材対象へのアプローチなど、決して容易いリサーチではないことでしょう。それでも、報道の分野で紛争地での取材経験もあるという森氏の実績から、困難な状況の中にあっても自らの道を切り拓くことができると期待しています。

 そして最後につけ加えておきたいのは、今回惜しくも選からもれた申請内容には、もう少し事前に調べて考えを深めておくことが可能な内容があるのではないか、現在の状況下では焦らず機会を待った方が良いのではないかなど、「今年ではない」という判断になったものが少なくなかったという点です。今年選ばれなかったことは、将来に渡って申請が否定された訳でありません。それぞれが今できることを追求した上で、ぜひ来年、再来年と再挑戦して欲しいと願っています。

ビジュアルアート分野審査員代表
木村絵理子(横浜美術館主任学芸員)



パフォーミングアーツ 総評

 だれにでも門戸は開かれていることはもちろんだが、だれがフェローを得てもおかしくない。強いていうならば、申請したすべての方々が優れていたことが、今回の傾向だった。素養や土台はもちろんのこと、さらにそこに次の未来をひらこうとする志がある。だからこそ思慮したのは、時宜に叶うということだった。

 フェローへの申請が満を辞してということもあれば、これからの可能性にかけるということもある。成熟したキャリアの中で、さらに次なるシーンを目指すこともあるだろう。各自のキャリアがもつ、さまざまな時宜のなかで、このACCのサポートがどのように響くのか。それが選考会のなかで、もっとも考えたことだった。

 そのなかで萩原雄太氏は、いままでの活動はもちろんのこと、今後さらに自身の創作活動を大きく展開していくとき、いわば「命がけの飛躍」をする時期ではないかと思わせた。もちろん、マルクスが語るような「命がけの飛躍」である。アーティストとして、いままでもっていた価値と新たな経験で得るであろう価値によって、その価値のあいだを飛躍すること。たとえて言えば、崖の先からもう一方の崖へと飛ぶとでも言おうか。そのような位置に、彼のキャリアは差しかかっているのではないか。

 渡辺真帆氏は、ACCの掲げるミッションとでもいうべき「アジア」を体現する活動をしている。西アジアである中近東、東南アジアから東アジアへ。その逆もしかり。その広さのなかで見えるアジアを、自身の企画や活動へと、今後さらに大きく、優れた形で、どのように結実させるのか。このフェローで得るであろう経験が糧になれば、と期待させた。

 国際舞台芸術交流センター(PARC)は、YPAMを中心に、前身のTPAM時代より、ここ数年は、東南アジア、東アジアとのアジア圏との積極的な活動を続けてきた。そこで培われたもの、また行われた数々のプロジェクトはたしかに大きい。しかし、日本と「アジア」との国際交流は、政治もからみ、盛況なときも不況のときもある。実際、今後の展望は楽観視できない。しかし、文化を手段としてのみ考えることは、多かれ少なかれ文化帝国主義だろう。それに対して、PARCの活動は、困難なときであれ、持続しようとする意志こそが力であると思わせる。少なくとも、そう信じたいと夢みる活動がある。

 最後にひとこと自戒をこめて。今回、審査のプロセスに関わらせていただいたが、私もおよそ10数年前には申請者の一人にすぎなかった。今から思えば、私がフェローとなれたのは僥倖としか言いようがない。少なくとも、もし自分が今回の審査のような場にいれば、とても自分の申請書に助成はできなかった。しかし、なんの偶然かフェローとなって、滞在するなかで、ジャンルの違いはあれど、他のアジアの地域から来た、さまざまなアーティストたちに出会った。それは、いまも続くかけがえのない友人たちを得ることになった。

 大上段からかまえたコメントだったかもしれないが、ぜひ、フェローの時間をせいいっぱい楽しんでほしい。楽しむということも、重要な経験なのだから。

パフォーミングアーツ分野審査員代表
高橋宏幸(演劇批評家)
 




助成:
公益財団法人セゾン文化財団
公益社団法人企業メセナ協議会

 



 


 



一般財団法人アジアン・カルチュラル・カウンシル (ACC) 日本財団

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