2020年3月、アメリカでパンデミックが本格化し、国際文化交流の現場に混乱が起きました。ACCはその時、2020年度のフェローシップやグラントの承認準備を進めていたところでした。そしてこれらのグラント、すべてが国際渡航に関するプロジェクトでした。他の多くの人物交流団体と同様に、ACCのプログラムは、飛行機に乗り、何千マイルもの距離を旅して異文化に直接触れるというタイプのものです。それがほぼ実施不可能となる状況を受け、ACCはACCの活動の目的を保持しつつ、しかしながら、その手段を改めて考える時を過ごしました。

以来、2020年に提案された助成プログラムの70%近くをバーチャルとリアルのハイブリッドモデル、または完全にバーチャルなモデルに変更し、国際渡航がかなわないときにも文化交流が継続できるプログラムへの支援に切り替えました。これは私たちの分野にとって新しい領域です。このような改革と不確実性の時代にあって、私たちが支援を行っている、バーチャルなプログラムのワクワクするような、そして時には驚くような結果を聞くことができるのは、刺激的なことです。

その一例が、国際的に高く評価されているカンボジア出身の作曲家、教師、活動家のChinary Ung チナリー・ウン氏(1970年ACCグランティ、2013年JDR 3rd賞受賞者)です。現在は作曲家としても活躍しているChinary氏は、Zoomを使ったレッスンで新世代の音楽家を指導しています。何十年にもわたって文化交流に参加し、何千人もの学生を教え、アーティストのグローバルなネットワークと交流してきた経験を持つChinary氏は、ニルミタ・コンポーザーズ・インスティテュートのワークショップをオンラインに移行することで、世界中の参加者がそれぞれの家から参加し、より親密なスケールで国際的なつながりを再構築することができたことに気付きました。

一方、ニューヨーク州立大学ニューパルツ校の音楽・アジア研究学科とミャンマーのヤンゴンにあるギタメイト音楽研究所は、ワークショッププログラムをバーチャル空間で展開させることで、異文化交流へのアクセスポイントを増やしました。これまでミャンマーに行くことができなかった学生が、オンライン・プログラムを通じた異文化間の対話や体験により、伝統的な「ナッ」(精霊信仰)の礼拝音楽をその道の大家から学ぶことができるようになりました。さらに参加者は、このような芸術文化への深い関わりを通じ、バーチャルな体験が地に足をおいた経験となり、スクリーンを通じたやりとりというフラットな空間の中ながら、より人間的なつながりを生み出していくことができたことを実感しています。

パンデミックの影響で人々がフィジカルに対面するという活動は中断されたかもしれませんが、ACCが支援を行ってきた優秀で創造的なアーティストたちは、活動の現場において、文化交流のあり方や感じ方を再発見しています。革新は、生存における生命線です。ACCは、助成金の使途の制限や障壁をできるかぎりなくし、交流の新たな可能性を模索し、拡大していきます。今こそ、再考し、新たな想像をめぐらす時です。経済的・政治的な交流が優先され続ける世界の中で、私たちを分断するために引かれた線を越えて、個人としての私たちをつなぐ役割を果たすのは、文化的な交流なのです。

すでに形になり始めている新しいモデルは、この業界全体の今後の活動を強化するだけでなく、戦略的かつ創造的にプログラムを成長させる機会をACCに与えています。そして、私たちACCが奉仕するコミュニティのニーズや優先事項、問題解決に対応する能力を拡大していきます。パンデミックがようやく治まり旅行が可能になったときに、私たちの仕事が始まるのではなく、現在の課題と未来の可能性の中において、革新的な交流活動を継続するという私たちの仕事は、すでに始まっているのです。


ミホ・ウォルシュ
エクゼクティブ・ディレクター
アジアン・カルチュラル・カウンシル