大岩オスカール氏(ビジュアルアーティスト)は、米国における現代美術の調査および、キュレーターやアーティストとの交流のため2001年にACCのフェローシップを受けて日本から渡米しました。オスカール氏は、自身のウェブサイトに掲載されている作品 - パンデミックの中心地となったニューヨークを拠点としている自分の最近の個人的な思いについて制作中のドローイング・シリーズ - をシェアして下さいました。


 

突然生活が変わった。今までのように地下鉄に乗ったり、スタジオに通ったり、街を歩いたり、映画館で映画を見たり、友人と会ったり出来なくなってしまった。隔離生活の中、外に出るのは食料品の買い出しか、ちょっと空気を吸いに出るだけだ。

進行中のプロジェクトや展覧会は全て延期された。都市はパンデミックの中核になり、住民は誰でも今まで以上に難しい生活を強いられている。多くの人が職を失い、請求書の支払いが絶望的になっている。世界中どこをみても元気の出るニュースなど見当たらない。多くの国が国境封鎖を行っている。アメリカ大統領の施策は最悪だ。

僕が普段通りのクリエイティブマインドでいられるために何ができるか、それもマンハッタンのマンションに籠ったままでできることを考えた。幸い僕は自分が感じたことを作品化できるスキルを神様から授かっている。この力を使ってドローイングのシリーズを始め、隔離生活の真っ只中の、空想の旅を思いつ いた。その結果がこの日記風の作品で、過去のこと、現在の生活、そして未来について考えたことを綴っている。

≪私の机、ニューヨーク≫ 2020, デジタルドローイング、55 x 76cm

この小さいテーブルが私の生活の中心になった。以前のようにスタジオに行くことすらできないが、今すべきことは嵐が過ぎ去るのをひっそりと待つこと。感染者数はこの一週間でピークだと言われているけれど、まだまだ前途遼遠だ。ただ、3週間の自粛生活が経ってみると、特別な生活が普通の生活になりつつあり、ストレスも少し軽減してきた。

≪大阪通天閣≫ 2020, デジタルドローイング、55 x 76cm 

3月末には大阪で美術館の学芸員と年末に開催する展覧会の打ち合わせをするはずだった。大阪のローカルなテーマに沿った連作を構想していた。そのために必要なリサーチもしてそのエリアの歴史や文化を調べたいと思っていた。でも感染拡大が日本にも及び、これもキャンセルとなった。

≪昭和の日本≫ 2020, デジタルドローイング、55 x 76cm

自粛生活のおかげでネットで古い映画を見たりしている。私は日本の50年代60年代のモノクロ映画、いわゆる日本映画の黄金時代の作品を見るのが好きだ。当時日本は第二次世界大戦から復興しつつあったがまだテレビは全ての家庭に普及しているわけではなかった。最近のテクノロジーに比べればシンプルなつくりではあるけれど、映画を撮るカメラの向こうにいるチームが、協働して作品を作っていることが感じられる。これらの映画はモノクロのドローイングに似ているかもしれない。メディアがシンプルであればこそよい作品を生み出すのは難しいのだ。

 


 

「グランティからの寄稿」は、アーティスト、専門家、また文化のアンバサダーとしての国際的なコミュニティにおけるACCのアルムナイの声をシェアするためのプラットフォームです。これは、世界中の言葉、映像、映像、音を通した文化交流です。私たちの身体が旅をすることはできなくても、私たちの心は出会うことができます。